Alice Doll
「そう言ってもらえると、気が楽になるよ」
奏が柔らかく目を細めた。
天がガラス張りのその空間では、柔らかく暖かな日光が入ってくる。
きっと、そのせいで顔が熱いんだろう。奏の今の表情がクリーンヒットしたからとか、そんな理由じゃない。
恋と憧れ。今の気持ちをどちらかに分類するならば、後者の方であると由衣は胸を張って言える。恋ではないと言えない日が来るのも近いかもしれないが。
奏という人間が、どんな人物で何をして、どうして、こんな屋敷にいるのか。また、美しい容姿を持ち、性格も悪くなさそうな彼がなぜ、表舞台で噂とならなかったのか。
奏につられ、少しさめてしまった紅茶を胃に収めながら、頭の中の疑問を整理する。
鍵も結局、見つからなかったのなら、今日はとことん、疑問を解消していこう。
「奏さん、お聞きしてもいいですか?」
「いいよ」
ただし、望む返答ができるとは限らないけどね。
奏は茶化すように言って、ティーカップを静かに置く。
「奏さん、さっきお仕事って仰ってましたけど、なにされてるんですか?」
「ああ。私は人形と呼ばれるものが大好きでね。マネキンでも着ぐるみでも、自分が人形と思えるものは何でも愛を感じる。
そんな人から見れば、ちょっと異常な愛が幸をそうしたんだろう。今は人形師……、人形を作ったり直したりする仕事をしているんだ」