Alice Doll
ガシャンと門扉が激しく鳴るのと、パタンと扉が閉まるのはほぼ同時だったように思われる。
しかし彼女は確かに見た。
淡い栗色の髪、ボディラインを強調するように身に張り付く妖艶な黒いドレス。
その黒とは対照的に真っ白で柔らかそうな肌。顔は見えなかったが後ろ姿から予測するに、期待して充分なはずだ。
あれが主人?
あの変わり者の?
あの噂の?
ドクッドクッ、と胸が異様なほど高鳴る。自然と口角が吊り上がる。
興奮で門扉を持つ手に力が入り、気付けば白く変色するほどに力を込めていた。
それに気付いた少女はゆっくり門扉から手を放す。指先にも血が通う感覚が嫌にリアルだ。
「はあ……」
少女はうっとりと吐息を吐き出した。くらくらと目眩にも似た感情を抱きながら、彼女は自転車に跨る。
今見たことを伝えたい! 今すぐに、誰かに聞いてほしい!
冷めやらぬ興奮を胸の内にくすぶらせ、少女は来たときよりも暗くなった路地に自転車を走らせるのだった。