プリンセスの条件
「いやぁーごめんごめん。さっきの子うちのお得意さんでさ」
宮本那波と話していたマスターが戻って来た。
彼女と翔太は、おそらくもうどこかの席についたんだろう。
……2人で。
「そう言えば、那波ちゃんってミサトちゃんたちと同じ大学じゃないっけ?もしかして知り合いだったりする?」
やっぱりマスターは気づいてないんだ。
さっきあたしに言った“幼なじみくん”が、彼女の連れだっていうことに。
ミサトが“翔太”の名前を出していなかったことに救われた。
さっきよりも少し落ち着きを取り戻したあたしは、カバンをとって立ち上がる。
ミサトも慌ててコートとバッグに手を伸ばした。
「え、もう帰るの?」
「ごめんねぇ、実は明日レポート提出しなきゃなんなくて。今日は息抜きに来ただけだから。またゆっくり来る!」
「そっかぁ、学生は大変だな。終わったらまたおいでよ、マイちゃんと一緒に」
ニコリと微笑み返すしかできなかった。
ごめんね、マスター。
きっとあたしはもう……ここには二度と来ない。
だって、お得意様の宮本那波や、彼女と一緒の翔太に鉢合わせしちゃったら……
あたしは笑っていられないから……。