「湯をかけて三千里」
彼女二十一歳は、そんな四人を無視して、駅中の立ち食い蕎麦屋の前に到着、彼女は、蕎麦屋の外の備え付けの券売機に千円札ねじ込んで、蕎麦の食券購入ボタンを、イライラしながら指で連打しよる、後ろの四人少しビビる、すると彼女、券売機から出てきた食券四枚を、一人一人に直接渡したりなんかして、でも何も言わんと店ん中入っていった。で、十分後。蕎麦を食った五人は無言で店から出てくる。彼女含めて一言も誰もしゃべらず蕎麦を食い上げた。で、彼女、ホームのベンチにどかっと腰下ろして、後ろの四人を見上げて、おまえらも座れやココ、言うて隣の席を指して、まずおまえを座らせる、他の三人も黙っておまえの隣に座る。あー、戻ってきてもうたわ結局、と彼女二十一歳が、おまえの顔見んと呟く。おまえは「六年間向こうで何しとったん」と訊く。ぐるぐる回っとった、と彼女は言う。ぐるぐる同じ所回っとった、どこで乗ってもどこで降りても結局同じ。ぐるぐる回って進みもせえへん。おまえはそれに答える「新幹線乗って東京行ったんちゃうん?間違えて環状線乗ってもうたんか」あほか比喩やボケ、と彼女、おまえの頭を強く叩いた。おまえは「よう解れへん」と。彼女が返す、おまえに解ってたまるかボケ。なあ、と一呼吸置いてから彼女が続ける、なあ、うちがおまえに最後に言うた言葉憶えとうか、おまえ見送りに来たやろこの駅まで、そん時、まず、おまえからうちにこう訊いたやろ「いつ帰ってくるんや」と、で、うちはおまえに返事した「今、自分が出来んことが出来るようになったら時、帰ってくる」言うて。そしたらおまえ、うちに言うたやんな「その歳でも出来ん事なんかあんのか、何が出来んのや」と。ま、それになんて答えたかは記憶無いけどな、と彼女。で、彼女は相変わらずおまえの顔見いひんまま、当時十五歳の彼女は続けておまえに言う。結局、当時も今も出来ることなんも増えとらんわ、なんも変わってへんわ。
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