まいひーろー
「………っ、あーーーーー!!!」
茜ちゃんがちょうど最後の一口を終えたとき、突然聞こえてきた大きな声。
その声の先には、呆然と茜ちゃんを見据えていた。
「おまっ………チョコデニのために今日の朝早くにおばちゃんにもらったんだぞ!」
如月君と話していたために気付かなかったのか、
こちらからみてもかわいそうなくらいに相沢君は若干目が潤んでいる。
その隣ではひそかに如月君が笑いをこらえているが、それには相沢君は気付かず。
「いいじゃん、細かい事はー。
つか、太陽てば購買のおばちゃんに好かれてんだから明日また行けばいーでしょー。」
そんな相沢君に同情どころか、適当に流す茜ちゃん。
「おれのチョコデニ………」
ガクリと椅子に座り込む姿を見て、私は不意にこんなことを口走っていた。
「わ、私のお弁当あげるから……!」
ふだんなら、絶対に言わないであろう言葉だとは気付かずに私はなおも言葉を続けて励ます。
「そ、それにお腹がすいているんなら、まだ……」
と、言葉をつなげようとしたとたん、うつむいていた顔が上げられ目が合う。
その表情はいたずらっ子のような意味深な笑みで。
どうしてそんな表情をしているのかキョトンとしていると、
「あっ!!」
手に持っていたお箸にはさまれた卵焼きをガブリと一口で食べられてしまった。
「うっま!これも蕾が作ったの?」
純粋に関心している様子の相沢君に私は顔を赤くしてコクコクとうなずくしかなく。
その隣で茜ちゃんが
「この鈍感天然変態男……」
と呟いているのが聞こえた。