まいひーろー
「なんで、まだ名前で呼んでくれないの!?」
「え、あ、えっと……その……」
あのカラオケから、よく振られる話題。
そして、今私が一番振ってほしくない話題でもある。
カラオケからは一週間がたったというのに、私はいまだに相沢君のことを相沢君と呼んでいる。
………それを、相沢君は不満に思っているらしく。
必ず一日一回はそう言われるのだが、私は毎度毎度苦戦しながらも話を流していた。
「アンタいい加減に諦めなよ…」
茜ちゃんがこう言うくらいだ。
「ヤダ。絶対蕾に名前で呼んでもらう!
俺もう今世紀最大の目標って決めてんの。」
すごく遠慮したいです………。
「ほらほら、よく見てみな、蕾顔ゲッソリしてる。」
茜ちゃんの言葉にも、もう慣れっこなのかどうなのか、相沢君は笑顔一つで流してしまった。
……そんな満面の笑みで流されても………。
………どうしよう。
正直、一言名前で呼べば済むのだろうが……。
もともと男の人と話すことがなかった私が、突然そんな事を出来るはずもなく。
毎回口に出そうとしても、喉で止まってしまうのだ。
「蕾ぃー。」
机に伏せながら、こちらを見上げる相沢君に可愛いと思ってしまったのを慌てて振り払って、
「そ、相談タイム終わったみたいだよ。」
勇気を出して言ったのはそんなことだった。