まいひーろー
思わず聞こえてきた声に自然と体が飛び上がった。
そろりと頭を上に向ければ、頭一つ半高いところに、眠そうに眉をひそめた如月君がいた。
………とてもクラス対抗リレーで最初をぶっちぎりの一位で走ったとは思えない。
「えっ、えっとあのっ………」
予想だにしなかったことに言葉が続かない。
かなり近い場所に、しかも誰もが口をそろえてイケメンと言われる顔があれば誰もがそうなるとは知らない私は口下手だと勘違いして自己嫌悪する。
「そういえば、昨日太陽とキスしたの?」
「………えぇっ!?」
ここまで露見に聞かれたこともなかった私はさらに慌てる。
昨日、体育祭が終わってからも片付けやらなんやらで高校に残っていたのだが、その時はいろんな人からそのことを聞かれた。
どうやら、茜ちゃんが仕方なくしたというのは、野次馬の最前列しか見えなかったらしく、それ以外の人は全員私がしたと勘違いしてしまっているのだ。
それで、いろんな人にそう質問されるのだが、すべて茜ちゃんに言ってもらった。
…………なぜかといえば。
「し、ししししてないよっっ!」
私が否定しても、慌てすぎて逆に怪しくなり、よけいに疑われてしまうからだ。
「そっか。」
一方の如月くんは表情なんて一切変えずに、そう一言だけ言って何事もなかったように教室に入っていく。
「………」
ポカンとしていた私は如月くんの後姿に慌ててついていった。