戦国に咲く紅葉
「……市は、兄上様の神経を疑います」
"市"と名乗ったその綺麗な女性は、花を握り潰す兄の横で、無表情でそう言った。
無表情の中にも、"悲しみ"が紛れているような複雑な表情だった。
兄は「くくく…」とまた不適な笑みを浮かべ、桜を握り潰したせいで桃色に染まってしまった自分の手の平を睨みながら言った。
「信長には、花を美しいと思う者の気が知れぬ」
"信長"というその男は、つね眉間に皺(シワ)が寄っていて、どこか冷たく、厳しい表情をしている。
「…兄上様には、きっと分かりませんわ」