ホタル

躊躇いがちに裕太が首を動かし、あたしは少しずつ瞼をおろし、そして、二つの唇を合わせる。

始めは軽く、触るだけのキス。体が震えた。何かが弾ける。

衝動だった。理性も道徳も何もいらない。

求めるがままにあたし達は、唇を重ねた。何度も、そして深く。

焦れったかった。二人を遮るものが全て、雨でさえもが邪魔だった。

溶け合うんじゃないかと思うくらい強くきつく抱き締めあい、息をするのも惜しいほどに唇を求め続ける。

味なんか覚えてない。どれくらいの時間キスをしていたのかさえ。

ただあたし達は、お互いを求めた。

長い間、満たされなかった欲求。二人の赦されない想いを埋め合うかの様に。


雨の夜。
幼い日々を過ごしたこの場所。
誰もいない、この小さな公園で



あたし達は、禁忌を犯した。



開けてしまったパンドラの箱。

溢れた水は、もうもとには戻らない。

神様は追放するだろうか。あたし達二人を、このエデンの園から。

それでもいいと、思った。


それでもいいから、裕太が欲しいと。


強く、願った。



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