ホタル
笑いながら裕太は、「朱音、可愛い」と顔を近付けてきた。避ける間もない。目を丸くしたままのあたしの唇に、裕太のそれが重なった。
洗いたての髪の香り。背中で裕太がカーテンを閉めた音がした。
「ゆ…」
一瞬離れた唇の合間を縫って呟くが、裕太はすぐにまた違う角度から口付ける。
頭が熱い。体に力が入らない。裕太のキスは、あたしの機能を停止させる。
ようやくあたしから離れた裕太は、あたしの髪を撫でながら自由になった唇で呟いた。
「明後日あけといて」
「え?」
「土曜日。祭り行こう」
「お祭り?」
あたし達の住む街のお祭りは8月に入ってからだ。7月にお祭りなんてない。
「少し遠いけど、電車で行けるとこでやってるんだって。そこなら行けるでしょ」