ホタル

パソコンを開いてレポートに取りかかったけど、それが空回りしていることもわかってる。

二、三文字打っては消して、打っては消しての繰り返し。その単調な作業が、逆に記憶を明確にさせる。

カチッとデリータボタンを押したまま、あたしはチカチカと光る画面をただ見つめた。


…裕太を最後に見たのは、大学一年の夏休み。

いつか二人で行った夏祭りで、偶然見かけてしまった。

隣にいた男の子は、多分中川君。周りは何人か女の子がいて、それが久しぶりにあたしの胸を締め付けた。

あたしと裕太は、一度も目が合わなかった。

なのにあの日の裕太が、あたしの瞼の奥から消えない。


感傷に任せて行かなければよかったと、あたしは何度も後悔した。

後悔すればする程、あたしはまだ裕太を想っていることを知った。

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