ホタル


異変に気付いて、まさみさん達が駆け込んできた。
床に散らばったコップの破片に、息を飲むのがわかる。

「悪いことなら悪いことって、ちゃんと見て教えろよっ!殴ってでも蹴ってでも、ちゃんとわからせろよっ!だから…そんなんだから、俺はお前らのこと親だなんて思えねぇんだよっ!!」

お父さんが立ち上がるのが見えた。

瞬間、あたしの体は動いた。

「裕太っ!」



―パチンッと、乾いた音が響いた。


遅れて頬に、衝撃を感じる。


痛みを痛みとも思えない、衝撃。


「朱音っ!」

立ちくらみがしたけど、倒れるわけにはいかないので寸でのところで堪えた。

裕太の服を握る。


視界の端に写る裕太の表情が、歪んだ。


「―てんめ…っ!」
「裕太っ!」
「裕太さんっ」

お父さんに掴みかかろうとする裕太を、全員が止めた。
こんなに我を失った裕太を、初めて見る。


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