ホタル




……………

暖かい夏の夕日が射し込む廊下は、優しくあたしを受け入れてくれた。

軋む階段も、大きな窓も、あの日々と何ら変わっていない。


壁の染みひとつにさえ、思い出は溢れ出していた。

でもそれは、もう痛いものなんかじゃない。

涙も笑顔も全て、優しいものに変わっていく。


目を閉じると、廊下の先にあの日々が浮かんだ。

優しい、落とすようなあの微笑みも。



『朱音』




ノックをせずに、ドアを開ける。

キイッと鳴る音が、快くあたしを迎えてくれる。


大きな夕日が広い部屋を暖かく染めていた。

穏やかな優しい光が、部屋の隅まで満ちている。

同時に感じたのは、あの懐かしいマイルドセブンの香り。

窓際の頭が、ゆっくりとあたしに向いた。







「裕太」






変わらない、優しい瞳。

小さく、落とすように微笑む。



果てしない時間と涙を要した。
でも今、心から言える。




優しい煙が、二人を包む。


同じ微笑みを、あたしは返した。













「愛してるよ」

















……………





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