ホタル


「あたし、そんなに煙草好きじゃないんだ」
「え?」

あたしの唐突な呟きに、英里の頭が動く。

「あんまり美味しいとも思えない。吸いだしたのだって、優等生の殻を脱ぎ捨てたかったって理由だけだし。辞めようと思えばいつでも辞めれる」
「じゃあなんで......」
「煙がね、好きだから」

吐き出した白い煙を見た。
ゆらゆら揺れながら、散り散りになって空へと続く。

「部屋の中でね、二人で煙草吸うの。触れあってないのに、煙は自然に繋がっていく。混ざりあって、ひとつになって、そして一緒に消えるの」

あたし達は決してそれが赦されない。ひとつになれたとしても、それは永遠なんかじゃない。一瞬の幸せは、一瞬の虚像。夜の闇へと消えていく。

「例えば遠く離れてね、向こうにもしあたしより大切な人ができて、その人の側で煙草を吸うでしょ。その時、もしあたしもどこか遠くで同じように煙草吸ってたら…もしかしたら煙の、ほんの少しの分子だけでも出会うかもしれないじゃん?そうやって…ひとつになれるかもしれないじゃん?」


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