ホタル
だって中学の頃のセーラー服は、ショートカットでもロングヘアーでもきっちり着こなせてた。
まさかブレザーがこんなに手強いなんて、思いもしないじゃない。
ずるっと肩からカバンの紐を落としながら、足を引きずる様にキッチンに向かった。
ショートカット、ブレザー、自分の顔。
高校に入学してから一番最初に学んだことは、これが最悪な組み合わせだということだ。
キュッと髪を引っ張りながら、もう一度軽い溜め息をついた。
「......誰もいないんじゃん」
キッチンのドアを開けても、広い部屋に人影は存在しなかった。
無駄に長いキッチンテーブルの真ん中には、朝から置いてあるインテリア化した花とフルーツ。
夕方の光が射し込む窓には、染みひとつない真っ白なレースカーテン。
だだっ広い、生活感ゼロのシステムキッチン。
それらを一通り見渡した後、一応「まさみさーん?」と呼んでみたが、まさみさん、所謂お手伝いさんのいつもの「はいはい」という軽快な返事は返ってこなかった。
あたしは今度は『ありえない』溜め息なんかじゃなく、安心した溜め息をはいた。
つまり家には、今誰もいないというわけで。