ホタル
あたしは悠々と広いキッチンを横断し、その先にあるこれまた意味もなく広いリビングに足を踏み入れた。
最近お父さんが購入した新品のソファーにドカッと腰掛け、その座り心地の良さを堪能する。
しばらくリビングのシャンデリアに目をやっていたが、思い出したかの様にそのまま手をカバンに伸ばした。
手探りでカバンを漁り、目的の品を取り出す。
もう一度後ろを振り向き人がいないことを確認すると、あたしはカバンから取り出した煙草に火をつけた。
思い切り煙を肺に入れて、満足そうにそれを吐き出す。
......ゆらゆらと天井をさ迷う煙とシャンデリアが、妙にミスマッチで笑える。
煙草をくわえたまま、今度は体ごとカバンに向けて携帯灰皿を探しにかかった。
左手でくわえた煙草を挟み、口から離して再び煙を吐く。
あたしの吐き出した煙の中に、青い愛用の携帯灰皿が目についた。
「あーった」
リビングで煙草を吸うことなんか滅多にないから、少しご機嫌な独り言。
いつも家族が生活しているリビングに煙を吐くことは、あたしの小さな満足感を引き起こすのだ。
清廉潔白なあたし。
そんなの幻影でしかないことの証よ。