ホタル
「えっと…じゃあ、平岡君は大介の替わりに来てくれたってことだよね?」
「うん、そう」
さっき全く同じ事を平岡君は説明してくれてたのに、あたしの回らない頭は理解するのが遅い。
つまり大介は断りもなく委員の仕事よりも部活を優先し、しかもその尻拭いをあたしと全く関係のない自分の友達に押し付けたというわけか。
あのやろう。明日覚えとけよ。
心の中で思い付く限りの悪口雑言を吐き、それはおくびにも出さずにあたしは笑顔で言った。
「そっか。なんかごめんね?大介が迷惑かけて…」
「嫌、それは全然…」
「わざわざありがとね。仕事はもう明日全部大介にやってもらうし」
苦笑いをしながら、帰る支度を始める。手伝わなくていいことがわかるような口吻を洩らしたつもりだった。
冷静さを装ってるつもりでも、平岡君が話す度に心臓は否応なくあたしを締め付ける。早くこの場から離れたかった。
「じゃ、わざわざごめんね」
そう言い残し、あたしは彼の横をすり抜けた。教室を出ようとした瞬間だった。