幸せの条件
 タクシーで実家まで帰ってきた。

玄関に向かう私の足が止まった。

実家の前でウロウロしている怪しげな人がいる。

「なにか用ですか?」

私が声を掛けると「うおっ!」と叫んだ。

パンパンに物が詰まった大きなリュック、色褪せた帽子、ボロボロのロングコート。

声から男だと分かった。

「ここ、片瀬さんの家ですよね?」

「ええ。」

「ゆりさん、いますか?」

私は、自分の耳を疑った。

こんな汚い男の口から姉の名が出てくるとは思わなかった。

「どこの誰ですか?」

男が慌ててパスポートを出す。

「彩人っていいます。ゆりさんとは大学の先輩後輩です。」

私は、パスポートをジッと見つめる。

「どうぞ。姉に連絡しますから。」

「よかった。この家、でかすぎて。どこから入っていいのか分からなかったんですよ。助かりました。」

男が笑顔を見せた。

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