ラヴレター(仮)
『アテがあんだ。今日連れてくから、先行ってスタジオとっといて』

何か企んでいる様子の一平はあたしにそう言い置いて、そのまま校内へと走り去っていく。
あたしが止める間もなくあっというまにいなくなってしまった。

一平に言われるまま、自宅ではなく実家が経営する音楽スタジオへ足を向けた。

『おかえり、今日は一平君いないの?』

『あとから来るって、奥の借りるね』

出迎えた母親に断って、カウンタから腕を伸ばして鍵をつかむ。くるくると指先で回しながら、奥へ奥へと進む。
かすかに聞こえる音をBGMにその一室を開けた。


コードをつなげ、準備を終えると無音だったそのスタジオに外の音が流れ込んできた。
振り向くと、上機嫌の笑顔を浮かべた一平がいた。

『聞いて喜べ、メンバー連れてきたぞー』

じゃーん、と入口から半身体をずらして、後ろに続く人をあたしに紹介した。

『俺のクラスの坂上と2Bの井之村』

『おいおい、いきなり連れてきてメンバーってないんじゃねぇの』

『聞いてない』

あたしをその視界に入れた2人は、不機嫌さも隠さずに一平へと告げる。
あぁ、無理やり連れてきたんだな、とすぐにわかるくらいに。
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