ラヴレター(仮)
笑いながらもその警戒を解かない井之村くんい今にも帰ると言い出しそうな坂上くんに気づいているのかいないのか。おそらく後者だと思うけど、一平はあっけらかんに言い放つ。
慣れているあたしでも一瞬、思考が止まるくらいに突拍子のないことを。

『バンド、組もうぜ』

コピーばっかじゃつまんねぇし、オリジナル作ろうぜ。

『坂上と井之村ってギターできるんだろ?しかも井之村めっちゃ歌うまいって』

藤村が言ってた。
相変わらず上機嫌で、笑みが絶えない一平は続ける。


藤村、とはあたしと一平、そして坂上くんと同じクラスの女の子だ。確かに最近、そういう話を聞いた。カラオケで歌った井之村くんは格好良かったと。
それにどういう背景があるかなんて言わずもがな。

2Bの井之村と言えば、明るくて話し上手で聞き上手。誰かに怒ったところを見たことがない。成績も悪くないため先生からの信頼も厚い。そして、顔は悪くない、……それどころか整っている。優しくて格好良ければ女の子はほっておけないだろう。
けれどあたしにしてみればとても危険な男子だと思う。黒に近いようなグレイゾーンでスリルを楽しんでいる。カラオケの件も翌朝早くに井之村と藤村が一緒に居たのを見たと誰かが茶化していた。
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