ラヴレター(仮)
それからというものの、一平のラブアタックはすさまじかった。
恒例となりつつある一平の口説き文句に、うんざりしたように最初に音を上げたのは、意外にも井之村くんだった。

『やっぱ、歌下手なんだろお前。ギターも弾けなかったりして』

『城ノ内、いい加減なこというのやめてもらえる?』

『じゃあやろうぜ』

『…………わかったよ、けど文化祭限定ね。続ける気はないから』



続ける気はない、って言ってたのにねぇ。
あの頃の記憶が自然と湧き上がってくる。いつの間にか音楽の世界にのめりこんでしまった2人。
文化祭だけと条件を付けたにもかかわらず、ずっと続いている。

「おねーさん?」

訝しがる高校生の声に我に返る。すっかり昔に浸ってしまっていた。
もう、自分とは関係ないこと。

「今度、城東の文化祭でライヴやるって聞いたけど?」

あの頃Kishで専用になっていた奥のスタジオへ、3人の高校生が向かう。その後姿へ思わず投げかけていた。

「え?」

「……ん?知らなか、った?」

「えぇぇ!!」

どうやら、まずいことを言ったらしい。
文化祭は1週間後に迫っていた。
< 13 / 22 >

この作品をシェア

pagetop