君は変人
現在1

中2四月―百合―

転ぶなよ、と彼は言った。

今流行りの携帯小説の、君しか見えない、という一節を読んで、だ。

一人の人間しか見えなかったら転んでしまうじゃないか、と彼は目に涙を浮かべて笑った。


それはあくまでも比喩であり、実際に一人の人間しか見えないことなどないのだ。


なのに、彼は一人で笑っていた。

何が面白いのか、ずっと笑っていた。



彼はとても変わっている。

何百年に一人の逸材ではないか、と思うくらいに。






彼との出会い、つまり一年前の出来事なのだが、今でも私は鮮明に覚えている。

中学の入学式、新しいクラスに新品の制服、周りを見渡せば知らない顔ばかり。

皆が下にうつむいて、こそこそと周りを観察し、自己紹介では普段はうるさい子も声が小さくなったり、独特の雰囲気が流れる中で、彼は言ったのだ。



「人間の最大のあやまちは、恋愛感情という感情を持ったことである」



クラス全員、いや学校全体が静まり返ったような気がした。

今年先生になったばかりの新米教師は、口をぽっかりと開け唖然としているし、私を含めた生徒も声が出ない。

自己紹介の時間なのに、あの人は何を言ってるんだ、と私は不意に思う。

そして、気付けば皆が彼の言葉を待っていた。



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