君は変人
恋バナ、いわゆる恋愛話の略だ。

バナ、とカタカナ表記の所も、個人的に女の子らしいと思う一つだ。


「バレンタインはね、うん、普通にチョコ渡した」

「だーかーら!
普通ってダメなの。
もっとさ、会話とかキュンとしたこと、ないの~」

胸に手を当てたり、ジェスチャーの多い玲菜との会話は、飽きない。


「んーじゃあ、手作りだからおいしいか分からないって言ったら、笑顔でありがとうと言われて、キュンとした。
次の日、おいしかったって言われた時には、桜のためなら毎日チョコ作ってもいいのに、なんて思った」

我ながら、言葉はかなりの乙女チック全開なのだが、まるで棒読みだ。


「うはっ。
川さんがキュンとか・・・・・・笑ってもいい?」

「いや、聞く前から笑ってるでしょ」

目に涙を浮かべながら笑われ、私は少し睨んでみた。


「だって~面白いんだもん。
ミスマッチって言葉は、今この瞬間のために、出来たと言っても過言ではないよね。
そっか~そんなこと言われたんだ。
ホワイトデーはどうだったの?」


興味津々の玲菜には、本当に悪いのだが、これは普通としか言いようがない。

いや、むしろ普通に考えれば、最低の方が正しいのだろうか。


「何もなかったんだ、本当に」

「何もない、ってことはないでしょ~」

私の右肩をつんつんと人差し指で、突いた。


「物は貰った。
だけど、ありがとうを言う前に、時間がないと言って、帰った」

「マジっすか」

「マジっすよ」

普段使わない若者言葉を使って、もう言わない、と心に誓う。


「うわ~ひどいなあ。
結構、キツかったでしょ?」

「まあ、それなりに。
だけど、次の日からはすごく普通だし、気にしててもしょうがないっていうか」

悪いことをしたかと思えば、何故か次の日は異様なくらい上機嫌で、その差に驚いてしまうのだ。


「さすが、桜。
史上最強の変人の行動は、予測不可能だね」

確かに、と笑ってしまう。

笑うといっても、口元が緩むくらいだが。




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