君は変人
「怒ってるの?」

「嫌なんだ。
今まで、自分が生きてきた道を、悪く言われるのは。
皆、俺のことを変だと思っただろうか」

「思わないよ。
だって、桜が変なことは、みんな前から知ってるし」


川さんの言葉に、思わず吹き出してしまいそうになる。

それをゲンが、あたしの口に手を当て、堪えさせてくれた。

つくづくあたしの行動が分かるんだなー、と思う。


「百合の言葉には、いつも助けられるよ」

「私はいつも、桜の言葉に助けられてるよ?」


一瞬の沈黙が流れる。

桜の弱さを見たのは、このときが初めてだったかもしれない。


「人間って、そこまで人間を嫌いになることはできないと思うんだ」

桜はポツンと言った。

教室だったら絶対に聞こえないような、独り言に近い声だった。


「憎むことや、恨むことはできる。
だけど、究極に嫌いになることは無理だと思うよ」


憎みや恨みと、嫌いというのは何が違うのだろう、と思ったところで、同じことを川さんは問いかけた。


「憎みや恨みって言うのは、例えば自分にとってすごく大切な家族や友達を殺されたりしたら、生まれるだろう?
だけど、嫌いって言うのは、生理的な問題やその人の性格的問題じゃないのか」

言葉1字1字を噛みしめながら、理解した。

なるほど、と声が出そうになるが、ゲンの手に吸収される。


「でも、結局は嫌いなんて感情は軽いんだ」

「ごめん。
言いたいことが、あんまり分からない」


「ああ。
俺は、山田が嫌いだ。
だけど、多分その嫌いなんて、離れたら消えるような、その程度なんだよな」

桜は息を吸ってから、続けた。


「分かんないな。悪い。
俺自身、何が言いたいか分からなくなってきた」

そう言って、桜はお得意の口笛を吹いた。

川さんは黙っていた。



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