君は変人

浅川のこと引き止めなくていいのかよ。

確か俺はそう言った。



沈黙を通す桜に苛立ちさえ、覚えた。


そして続けた。



お前浅川のことちゃんと考えたことあるのかよ。

それでもお前、人間なのかよ。



さすがに言い過ぎたと思った。

変わってしまう何かへの不安を、全てぶつけたのかもしれない。


謝ろう、と思った時には、もう遅かった。


桜は悲しい顔も、怒った顔も見せず、ただ無表情だった。




“俺は人間じゃないのかもしれない”



風のようにすり抜けた桜を、目で追うことはできなかった。



何かが崩れる音がした。


変わってしまうことを、俺は悟った。


多分それは玲菜も同じで、だからこそあの日、何一つ口から言葉は出なかった。



浅川に電話でもしようと思った。

なんとか、田上への思いを断ち切ってほしいと願った。



だけど、途中で自分が何をしようとしているのか分らなくなった。




結局、他の人を一人が好きになっただけで崩れてしまうような、関係だったのかって。


でも、崩れたのは関係ではなかった。






崩れてしまったのは、桜だ。







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