君は変人
蝉の忙しなく響いていた声がぴたりと止まり、辺りは静寂に包まれる。
空気が変わりかけている。
気付けば背中を伝わる汗も、おでこにへばりついた髪も、どこか涼しさを感じた。
「正しいか正しくないかは分からないが、俺は百合と話せる今が凄く楽しいよ」
「うん、それを継続するべし!」
ピンと突き出したあたしの人差し指を、桜は迷うことなく下ろさせた。顔をのぞくと、ほんの少し口角が弧を書いているように見えた。
「強情の桜が意志を曲げるなんてね~、あたしてっきりもう仲直りできないんじゃないかって本気で心配してたんだから」
「…ああ、なんか百合の顔久しぶりにまじまじと見たら居ても立ってもいられなくて。
気付いたら名前呼んでた。
俺も話したかったんだろうな」
「どこぞの純粋ボーイなわけ」
あたしは反射的に桜を凄い形相で睨みつけてしまった。
じれったい、とこれほど感じたのは初めてだ。
あの桜が、俺は考えるより前に行動とか絶対有り得ないですけどむしろ考えに考えて何度もシュミレーションしてから動きますけど、ってタイプの論理的人間が感情で動いたなんて。
そんなの、理由は1つしかない。
好きだから、しかない。感情で動くなんて、恋愛じゃん。
「純粋ボーイ…」
「あんた、ばかじゃないの!
これだから恋愛感情ないとかほざく男は嫌いなのよ!」
「俺以外にそんなことをほざく男は、この世界にいるのか?」
「いないわよ!そんな変わり者いないっつの!要するにね、」
「変わり者って言うな。人間は皆違うんだ、当たり前だ」
「面倒くさい!その話は後で!」
「よし、後から十分語ってやろう」