君は変人
と、やっと家に帰れると期待したのもつかの間、桜が近くの公園に行きたいと言うので、結局は寒い風に当たることになった。


「寒いな」

「あんたが来たいって言ったんでしょ?」

玲菜は本当に寒そうな格好をしている。

マイクロミニと言っても過言ではないスカート丈に、コートも着ずかなりの薄着だ。

本人が言うには、着ぶくれしたくないかららしいが、スカートが短い理由は特にない。


「俺は、ブランコに乗ってみたかったんだ」


ブランコ、と三人の口が揃うのが分かる。


「それは、ブランコに乗ったことない、と受け取っていいの?」

浅川は玲菜とは対照的な恰好だ。

スカートはひざ丈くらいだし、黒いダッフルコートを羽織っていた。

寒いのは苦手だと言う割に、寒そうな顔はしていない。


「ああ、俺はブランコに乗ったことがない」

桜とそこまで付き合いのない奴なら、この発言はかなりびっくりするだろう。

だけど、俺たちはこの変人と半年間も一緒にいるのだ。

変な発言には慣れているのだ。


桜は屁理屈をたたくわりに、知らないことは多かった。

もちろん、知っていることにはとことんうるさかったけれど、知らないことは姿かたちさえも知らなかった。


「確か、観覧車も知らなかったよね。夏休みにいきなり電話かかってきて、なにかと思ったら、観覧車乗ろう、なんだもん。びっくりしたよ、本当に」

そう、桜はいつも突然で、そして強引なのだ。

予定があると言ったら、家まで迎えに来るし、相当観覧車に乗りたいんだなと思って、しょうがなく付きあってあげたのだ。


今となっては、あれも印象に残るエピソードだった。




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