君は変人
「まあ、浅川は自分の心配しとけよ」

え、という声が聞こえ自分の口から出たものだと気づく。

「自覚症状なし、ってやつか」

源の言葉を自分の中で整理しようとしたとき、丁度桜が言った。


「ロミオはおかしくないか?
こんな役、俺と考え方が全く違う」

確かにロミオと桜が似ていたら、こんなに私が苦労することはないだろう。

第一、桜には恋愛感情がないんだから。


「だろうね」

少し伸びてきた髪を耳にかけた。

「まず、愛する人が死んだからって死ぬっていうのは、理解できない」

そりゃあ、理解できないだろうね。

でも、嫌味っぽくなりそうだったので、あえてコクンと頷いた。


「桜って、本当に恋愛感情ないのー?」

玲菜の間延びした声が、騒がしかった教室をシーンとさせた。


「そんなこと、何度も言っただろう」

桜は面倒臭そうに答えた。


入学当初、玲菜は何度もその質問をしていた。

玲菜はどうも、桜の言っていることを信じられなかったらしい。

まあ、別におかしいことではない。


私だって、それなりに気になっていた。

嘘をついてるようには思えなかったので、改めて聞かなかっただけだ。

源はほとんど興味がないみたいだった。


しかし、おそらくこのクラスの過半数以上は聞きたいけど聞けないに属するだろう。


「それって、ありえなくない?」

「その、なくない?ってやつは、ないのかあるのか良く分からない」


桜は、なくない?のとこを玲菜に似せて言った。

ミスマッチ、と内心でつっこむ。


「そんなことはどうでもいいから、恋愛感情がないなんて有り得るの?」

常識的に考えれば、有り得ない。

だけど、桜はいつも常識を覆す。


「ここに有り得てるじゃないか」

玲菜は負けじと言葉を探している。

ふと、目をそらすと、我がクラスの担任が私に手招きしている。

またか、と思いながらも、重い腰を上げた。

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