君は変人
「最近多いですね」
数学準備室に呼び出された。
数学に準備室が必要なのかは置いといて、生徒に対して場所が広すぎるこの学校には、無駄な場所がいくつかある。
新米教師は、私に背を向けコーヒーを淹れている。
砂糖は一つと言っているのに、また二個入れている。
溜息が出るのをぐっと堪える。
「う~ん、百合ちゃんに話しすると、楽になるからかなあ。なーんて、先生が言う言葉じゃないかー」
私の分のコーヒーを置いて、新米教師は椅子に座った。
向かい合って思うけど、普通にしていればそれなりに顔は整っている。
ただ、幸薄そうなだけで。
「今回はどうしたんです?」
「百合ちゃんのことだから、分かってるんでしょ?」
普段は浅川さんなのに、数学準備室に入ると、百合ちゃんになる。
「ええ。まあ、おそらくこないだの中庭掃除のことだと思いますけど」
確信はある。
先生という職業は、結構上下関係が厳しい。
恥をかかされたはげ教師は、桜の担任、しかも新米教師ってわけで、大野さんをいじめるのであろう。
大野さん、とは新米教師のことだ。
「ピンポン!大正解~」
何歳だ、とつっこみを入れそうになってやめた。
良く考えたら、まだ全然若い。
私が言えることではないけど。
「私、先生向いてないのかな?」
大野さんはコーヒーを啜った。
それにつられて、私も啜った。
やはり、甘い。コーヒーも人に似るのかな。
「大野先生、気の利いた言葉と本心に近いややとげのある言葉、どっちがいいですか?」
気の利いた言葉を選ぶと思った。
だけど、大野さんはとげのある言葉を選んだ。
案外、この人は強いのかもしれない、と思った。