君は変人
玄関で外履きに履き替え、桜たちの靴箱をチェックした。

玲菜と源はもう帰ってるようだ。

桜の外履きもない。

だが、何故か私の目の前には桜の学生鞄がある。


桜を探して一緒に帰ろうか迷ったが、そんな可愛らしい漫画のようなことは似合わない。

これでいいのだ、私は、と言い聞かせる。


「あれ?浅川さん?」

振り返ると、我がクラスの学級委員さんが立っていた。

「はい。何か?」

「浅川さんって部活してましたっけ?」

「いや。今日は少し遅くなっただけ」

確か、一ノ瀬美雪・・・・・・そんな名前だったような気がする。

もう11月も終わるのに、クラス全員の名前を把握していない私は珍しいのだろうか。


「もったいないですよ。うちのバスケ部、入る気ないですか?」

スポーツは得意な方だ。

ただ、嫌いなだけで。

いや厳密に言えば、人付き合いが嫌いなのだ。


「私は向いてないよ」

勧誘は今まで何度もされた。

助っ人に一度だけバスケ部には行ったことがある。

あれは、私が中学で犯した最大の間違いと言っても過言ではない。


「浅川さんが向いてなかったら、私はもうバスケする資格もないよ」

苦笑交じりに一ノ瀬美雪は言ったが、冗談でもなさそうなので反応に困る。


「美雪、さぼりかよ。あれ?浅川さんじゃん?
珍しい組み合わせだな」

確か・・・・・・だめだ。分からない。

苗字さえも分からない。

隣のクラスでバスケ部なのは分かるのだが。


「あ、俺!?
俺はね、田上健人。
健康な人って書いて、健人ね?」

ただじっと見つめただけなのに、健人と名乗る男は話しだした。

私は見るからに嫌そうな顔をしたに違いない。

はあ、とため息交じりにしか返答のしようがない。

苦手なタイプだ。

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