君は変人
「百合、花の種類の。分かる?」

名前を聞かれたので、簡潔に答えた。

「分かるよ~俺をなめんなよ。
へえ。じゃ、百合ちゃんって呼ぶから」

無理矢理だ、全てが。

せめて、名前を呼ぶのは許可を取るのが普通なのではないか。

田上は、ほとんど決定事項のように言ったが。


まあ、そういう勝手なところは少し桜に似ているかもしれない。


「てか、あんた練習はいいの?」

一ノ瀬美雪は少し怒り気味だった。

「やっべ。あんまり楽しいから、忘れてた。
じゃあね。いや、またね。百合ちゃん」

楽しい?私と話すのが?

変わった趣味だ。

私と話して何が楽しいんだ、全く。


「ごめんね、浅川さん」

「ああ。本当に」

そう言ってから、私の冗談は慣れてない人には通じないことに気付き、ジョークだ、と付け足した。

一ノ瀬美雪はやはり真に受けていたようで、私の一言に安堵した。

「健人、面食いだからなー。
まあ、また関わってくると思いますけど、大目に見て下さい。
あ、部活の件ですけど、暇でしたらいつでも体育館来て下さいね」


暇なのはいつもだ、と言うのはやめた。

そして、別れの挨拶のような感じになり、話も終わりにさしかかるところで、彼女は思い出したように言った。


「そう言えば、桜、野球部の助っ人行ってるみたいですよ」


桜の名前を玲菜以外のクラスの女子から、まじまじと聞くのは初めてかもしれない。

胸の奥で何かがうずくのが分かる。

嫉妬と言うほどではないから、ヤキモチ、だろうか。

まあ、言い方が違うだけでどちらも同じか。


「知らなかった」とだけ言った。

そのヤキモチのせいで、いろいろなことを彼女にぶつけそうだったからだ。

早く立ち去ろう、そう思い簡単に話を終わらせた。



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