君は変人
運動場通らないと帰れないので、しょうがなく重い足を動かした。


見ない、絶対見ない、と心に誓ったがやはり目は頭通りには動いてくれない。

桜だ、と小声で呟いた。

もちろん、聞こえるはずもなく、桜はピッチャーをしていた。


いきなりの助っ人がピッチャーか、と笑ってしまう。


そのピッチャーが手を振ってるではないか。

誰にだ?と思い、後ろを振り返るが誰もいない。

私か、と自分を指さすと桜は大きく首を縦に振った。


「百合ー。もうすぐ終わるから、帰ろう」

声が出なくて、首をとりあえず何度も振った。

桜は少し微笑み、また真剣な顔つきに戻った。


こうやって桜を待っていると、自分がまるで彼女になれたような気になる。

本当にやめてほしいものだ。

そんな期待、しただけ無駄なのに。


「悪いな。ちょっと遅くなった。
百合は今日遅いんだな。
頼朝達と帰ったのかと思ってた」

「うん、いろいろあって」

桜は興味のないことには深追いしない。

私が何をしていたのかが桜にとって、どうでもいいということを悟る。


無言で歩いて行く桜を追うように、私は小走りをした。

行くか、とか少し声を掛けてくれてもいいのに。


「桜、助っ人とかやるんだね」

「野球は嫌いじゃないんだ。
ただ、チームプレイってとこがな、少し嫌なんだ。
俺が九人いればいいのに」

何て自分勝手な。

まあ、スポーツに関しては人のことを言えない。

チームプレイは同じく苦手だ。


「九人って。桜らしいけど」

「俺らしいって、何だ?」

桜の即答に、私は戸惑う。

「何って言われても」

「俺の性格は、百合から見てどうなんだ?」




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