君は変人

中1一月―スー―

もっとマシな奴を連れてくれば良かった、と心から思うのももう遅い。

ここまで来てしまったら、後には引き返せない。


「スー。ここ、大学だ」

「そんなの分かってるよ」

「俺の好きな携帯小説の握手会は、どうなったんだ?
今日、1部が発売なんだぞ?」

素直に言うのは気が引けたので、あの携帯小説の握手会があると言って、桜を連れてきたのだ。


ゲンの気持ちは何となく分かったけど、ここに連れてくるのは、やはり気が引ける。

本当は川さんに来てほしかったのだが、どうやらバスケ部の助っ人に行ったみたいだ。

だけど、一人で行けるほど、あたしの心はいい子じゃない。

それで桜を連れて来る自分もどうかと思うけど、仕方ないことは仕方ない。


「知らないわよ、そんなの」

「知らないってお前・・・・・・。
俺はそのためにわざわざ時間を割いて、スーについてきたのに」


生気が抜けたように、桜の表情は暗くなった。

たまには元気のない桜も面白い、と思っていると一人の男が校門から出てきた。


あ、と声が出ていたに違いない。

桜が顔を上げ、あたしの視線の先にたどり着いた。


「へえ。なかなかのいい男だな。
もしかして、初恋の人ってやつか?」

多分、何気ない冗談のつもりで桜は言ったのだろう。

でも、いきなりの的を射た言葉に、あたしは何とも返せない。


「行かなくていいのか?」

まるで、あたしの顔を見て全てを理解したような言い草だった。


「行かないんじゃなくて・・・・・・行けない」

何かがこぼれ落ちそうなのを必死に堪え、下を向いた。


「スー、俺今日は暇だから、少しくらい聞いてあげてもいいけど」


この後、桜の不器用な優しさに触れて、涙を流してしまったのはちょっとした誤算だ。

だけど、まあ後悔はしてない。


あの時、隣にいたのが桜で良かった、と本当はちゃんと思ってる。





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