君は変人

「結婚するんだって。
あたしが中学入学すると同時に同棲してて、今年で大学も卒業するから」

「ふうん」

素っ気ない桜の返答。

本当に笑ってしまう。


「じゃあ、フラれに行くか?」

桜は立ち上がり、あたしの手をグイと引っ張った。


「は?意味分かんないんだけど。
行くってどこによ」

大股で早歩きの桜に引っ張られ、頭の回転も鈍くなる。


「決まってるだろう。
中野敏明のところだ。
この距離なら、まだ追いつく。
どうせ、駅に向かってるんだろう」

「そんなの、分かんないじゃん」


言葉では否定したが、内心トシ兄が駅に行こうとしていると確信できた。

桜の言葉は、強くて自信に溢れていて、それに今すごく励まされている。


息を切らせながら歩いていると、目の前にあたしの好きな背中が見えた。

桜もほぼ同時に気づいたようだ。

掴んでいたあたしの手を離し、ポンっと背中を押した。


「と、トシ兄!」

大声で呼んだけど、道行く人々の雑踏に掻き消された。

息切れが邪魔をして、声が出ない。情けない。

やっと、決心がついたのに。


「なーかーのとーしあーきさん」

桜の声が響く。

中には歩みを止める人もいた。


トシ兄は振り返り、桜の姿を見てクエッションマークを出したが、隣にいるあたしに気がつくと、優しく微笑んだ。

ああ、やっぱり、まだ好きなんだ。


「玲菜、久しぶりだね。
その隣の子は、玲菜の友達?それとも、彼氏?」

「違う」

桜と声が綺麗に揃うのを見て、トシ兄は笑った。


「友達なんだね」

そう言ったトシ兄の言葉を、あたしも桜も否定しなかった。


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