君は変人
結局、立ち話も何だし、というトシ兄の温かい心遣いで、近くのファミレスに寄ることになった。

桜はファミレスが初めてだったらしく、特にドリンクバーには感嘆の声を上げていた。


「佐倉くんって、少し変わってるんだね」

そんな桜を横目に、トシ兄は耳打ちした。

「桜って言わないと怒るんだよ。
本当に変な奴だよね」

コップにたぷたぷに入れたメロンソーダーを片手に、桜は言う。


「変な奴?失敬な。
誰一人として同じ人間はいないのだから、変わっているのは当たり前だろう。
まあ、皆が変人になれば、変人と言う意味も矛盾してくるのだがな」

小声で話していたのが聞かれていたので、二人して目を丸くした。


「耳もいいの、桜は」

あたしが嫌そうな顔をして言うと、トシ兄は笑った。


「御結婚はいつされるんですか?」

席につくと、単刀直入に桜は聞いた。


「えっと、4月は就職したばっかりだから、少し落ち着いてからにしようってね。
彼女が6月がいいって言うから、多分その頃だと思うけど」


「へえ~。ジューンブライドってやつですね?」

「うん。いわゆる、ロマンチストなんだよね、彼女」


桜とトシ兄はすごく打ち解けていて、初対面とは到底思えない。

それとも、あたしに気を使っているのか?

裏がある、と思うがここは気を使ってくれていると考えるにしよう。


そんなことをふと考えていると、携帯の電子音が鳴った。

「あ、ごめん。ちょっと待っててね」

トシ兄が席を立つと同時に、桜は呟く。


「優人さんと、似てるな」

「鋭い。バレたか~」

茶化すと、桜は嫌な顔をして、大事なところははぐらかすな、と言った。


「うん、だから、優人だけは特別だったよ」





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