君は変人

まだ時間も早かったし、家に帰る気分でもなかったので、近くの公園で少し話すことにした。


「敏明さんしか、見てなかったんだな」

「どうせ、転ぶなよ、とか言うんでしょ?」


桜には分からない意味の、見ていない、だ。

あたしも実は、その見ていないの意味をうまく説明できない。


「いや、何となくだけど、ニュアンスは分かったよ。
何か、切なくなった」

思いがけない返答に驚きながらも、あたしは言う。


「切ないって感情はあるんだ?」


「多分、今思った言葉で表せない感情は、切ないなのだろうなって思った。
やっぱり俺は、恋愛についてそんなにいい考えは持てない。
だけど、今日、スーのこと見て思ったよ。
もしも、スーが結ばれてたら・・・・・・きっと、そんな嬉しいことはないのになって」


そう言ってトシ兄と似た、優しい笑みを桜は投げかけた。


「柄にもなく、そんなこと言うなよ~。
泣きたくなるじゃんか。馬鹿~」


もう限界だった。

一体何年間の片思いが、今日幕を閉じたのだろう。


「泣けばいいじゃないか。
泣いて泣いて、そしたらまた新しい恋が待っている。
スーは早く、次に進むべきなんだ」


大声を出して涙を流した。

人前で泣くのは初めてかもしれない。

昔から弱さを見せるのが大嫌いで、ずっと辛くても笑ってきたのに。


馬鹿、桜。

何でこんな奴に、あたしは心を開いちゃってるんだろう。

本当は分かってる。


桜の言葉はとても優しいんだ。


屁理屈のためだけに存在する口だと思ってた。


だけど、隣にいるのが、こいつじゃなかったら・・・・・・。

そして、手を引っ張ってくれなかったら・・・・・・あたしは何も言えなかった。

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