君は変人
中1二月―百合―
体育館に響き渡る、バッシュのキュッキュッという音。
バッシュとは、バスケットシューズのことである。
紐を固く結び、足首を守るこのシューズを履くのは久しぶりだ。
「浅川さん、来てくれたんだね」
一ノ瀬美雪はすごく嬉しそうな顔をしながら、駆け寄ってきた。
「こいつが、うるさくて」
隣にいる田上を、人差し指で指さしながら言った。
「百合ちゃんは酷いなあ。
こいつじゃなくて、健人って呼んでよ」
最近妙になれなれしく話しかけてくる田上だが、バスケの技術だけは認めざる負えない。
「前から一つ聞きたかったんだけど、この部に先輩はいないの?」
隣で田上は、完全スルーかよ、と嘆いているが、気にも留めない。
「ここら辺、ミニバスもないし、バスケは盛んじゃないみたいで。
だから、一応部員としてはいるんですけど・・・・・・」
「つまり、幽霊部員ってことね」
「そういうことになります」
一ノ瀬美雪が何故私に敬語を使うのかは、未だ定かではない。
だけど、ほとんどの女子は私に敬語だ。
近寄りづらいオーラは、おそらく一生ものだ。
右膝を後ろに曲げ、バッシュの底面に手を当て、埃を取る。
同様に左膝も曲げ、同じ動作を繰り返した。
懐かしい体育館のにおい。
球技大会や体育の授業では味わえない、この高揚感。
私はバスケがかなり好きなのである。
キャプテンの掛け声で始まり、ランニングなどの基礎練習から入る。
自主トレはするが、やはり一人でやるのとみんなでやるのでは、全くもって違う。
体力の衰えは若干感じるが、気にするほどでもない。