君は変人
沈黙が続き、それを破ったのは、浅川ではなく田上だった。


「いきなりだったしさ、今日は無理にとは言わないよ。
返事いつでもいいからさ。
気持ちだけ伝えときたかったんだ。
そしたら、ちょっとは百合ちゃんも意識してくれるかなって」

浅川の声は聞こえない。

おそらく、首を縦に振ったのか、それとも、この至近距離でも聞こえないような声で話したのか。

多分、前者の方だと俺は思う。


そして、そのまま田上は曲がり角の奥の階段に向かって颯爽と走って行った。

告白した後の、スッキリ感だろうか。

まあ、返事がノーなら、そんなわけにはいかないのだが。


「え、何で?」という、浅川の驚いた声を聞いたのはすぐだった。


「何で、はないだろう。
俺たちは百合を待ってたんだ」

「ごめん。
・・・・・・聞いてた?」

初めて見る、とてつもない桜の機嫌の悪さに、俺はどうしていいのか分からなくなる。


「うん、大体ね。
でも、川さんが告られてるの、直接見るの初めてで新鮮だった~」

笑顔でいう玲菜のおかげで、何となく場の雰囲気は和んだが、やはり桜はふくれっ面だった。


そこで、俺は気付いてはいけないことに気付いてしまった。


浅川は誰に何と告白されても、容赦なくフる人なのだ。

それが今回はどうだろう。

あの浅川が悩み、返答に躊躇し、返事は後でいいとまでは言われたのだ。


それは異例中の異例ではないか。

俺は身をもって、田上と浅川の関係が深くなっていたことを知る。



そして、同時に思う。

俺が気付いていて、桜が気付かないはずがない、と。







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