君は変人
浅川と玲菜は、それから言葉を交わし、時折微笑んでいたが、桜の表情は険しくなる一方だった。
普段から、浅川に比べればまだ笑う桜も、ほとんどは無表情なわけで、特に今は冷たい。
そうやって、桜の表情を一生懸命読もうとしている俺の努力は虚しく、後ろを振り返りスタスタと歩いて行った。
俺は慌ててその背中を追い、それに気づいた浅川たちも少し駆け足で来た。
教室の前に差し掛かったところで、桜ははっきりとした声で言った。
「今日、部活行くから」
うんともすんとも言う前に、桜は鞄を取り、大股で歩いて行った。
桜の背中が見えなくなると、浅川は深いため息をつき、肩をすぼめた。
俺と玲菜が顔を見合わせ、何か言葉を掛けようとしたときに、浅川は急に口を開いた。
「ごめん。
私も部活行っていい?
何か、走りたくなった」
無理して作り笑いをしているのは、簡単に分かった。
そんな浅川を見るのが辛くなって、俺たちは首を振ることしかできなかった。
じゃあ、と言い残し教室を出て行った。
「あーあ、としか言いようがないね」
「ああ、本当にな」
ここでボーっと突っ立てるのも何なので、とりあえず玄関まで行くことにした。
「桜、ご立腹だったな」
「初めて見たよ、あんな桜。
でも、いつも感情を表に出さない分、一歩踏み出した感があるんだけど」
「分かる、分かる。
でも、浅川は心配だな。
あいつは結構きてたと思うけど」
「うん、確かに。
困ったなー。
何で川さん、すぐにふらなかったのかな?
いつもなら、即決の無理なのに」
恋愛の達人には、そんな問題朝飯前だろう?と皮肉も込めて、俺は言った。
やはり、玲菜はそれが皮肉で言っていることも気付かず、単純に頭を悩ませた。
俺的には、実に簡単だ。
好きな人がいる奴が告白されて、返事に困るなんていうのは、大抵の場合、理由はひとつしかない。