君は変人
何か怒ってましたよ、と一人が言うと、だよなだよなとそれに周りも賛同した。

まあ機嫌が悪い時に、ボール投げたらスッキリするだろうな。


「物に当たったりしてるわけじゃ、ないんですよ。
三振とかとったら、桜さん不意に笑うんです。
多分、自覚してない素の表情で。
それが今日は全くなくて・・・・・・俺あの笑顔好きなんですよね」


確かに桜の笑顔は、同性ながらどきっとすることは多々ある。

これは、ホモ的な思考ではない。

整った顔が、時々漏らす笑顔が、人間は美しいと俺に思わせるのだ。

玲菜は1年生のその言葉を鼻で笑ったが、俺は気持ちが良く分かる。


「あ、もうすぐ桜さん来ると思いますよ。
着替え、ハンパなく早いんです!」

そうなんだ、と微笑みながら言い、桜が急いで着替えをしているところを想像した。


「おう。ありがとな」

「では、帰りますね」

「ああ、じゃあな」

隣で玲菜はニヤニヤしていた。

何だよ、と少し眉間にしわを寄せながら言うと、眉間にデコピンされた。


「ほら、しわ寄せない。
ゲンって絶対さ、後輩に好かれるタイプだよね~。
先輩にも、何気にいじられそうだしさ」


そう言えば、玲菜は年の違う女子とは、性格が合わない。

というより、あまり好感を得られない。

本人も気にしていることだった。


あれだけ、同い年から好かれるのに、たった1つ年が違うだけでいろいろと状況は変わるのだから、驚いてしまう。


「でも、俺は、玲菜ほど同い年から好かれないぜ?」

「だけど、世の中には同い年より、先輩後輩の方が圧倒的に多いよ」

鋭い指摘に、俺は絶句する。


「やっぱ、関わりの深さじゃねえの?
玲菜の性格をちゃんと分かってる人には、お前はすごい頼れる優しい人なんだって。
第1印象あれだけど、みんな分かってくるじゃん。
いい奴だって、な?」

咄嗟に出た言葉だったが、その通りだなと思った。

玲菜は嬉しそうに笑い、そして前方から疾風のように歩いてくる桜を見つめた。


俺は静かに息を呑む。

『人生とは、1歩先の未来も見えない』

そんな言葉を思い出していた。




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