【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
「仁菜」
不意に呼ばれた名前。
私の、名前。
暖かいものが込み上げてくるのがわかった。
振り返らなくてもわかる。
その存在。
なんで?
ただ、沈みゆく夕陽を見る事しかできない私に伝わる体温。
「…何泣いてんだ?」
フッと笑ったのが耳にかかる吐息でわかる。
『…翔』
くるりと振り向いてその場所に飛び込む。
…私の唯一無二の存在。
「吃驚したか?」
『した』
そう言えば、涙を親指で拭いながら、ポンポンと私の頭を撫でてくれる翔。
落ち着く。
「吃驚するって言っただろ?」
『…え?』
「デート。するんだろ?俺と」
口の片端をグイっと持ち上げた翔は余裕綽々に笑った。
思い出すのはクランクアップの時の言葉。
“デートしよう”
“日にちと場所はまだ秘密な”