【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
車に乗り込み、シートベルトをした私を確認した榎本さんは車を発進させる。
私は別に話す事なんて何もなくて、ただ流れる景色に視線を向けていた。
だけど移り変わる景色を見ていても考える事はやっぱり翔の事で、首から下げられたらペンダントを握ってそういえば4月は翔の誕生日だったな…と考える。
車内に流れていた軽快な音楽が消えたのは、それから数分後の事だった。
不思議に思い榎本さんに視線を移せば、形の綺麗な唇が開く。
「……お前最悪だな」
『…え?』
いつの間にか車はマンションの前で止まっていて、彼はこちらを鋭い眼光で見ていた。
いきなり発せられた言葉に頭がついていかない。
「社長のお気に入りだかなんだか知らねぇけど、お前この世界ナメてんだろ」
『…………』
「歌に集中できてねぇし、男しか頭にねぇのかよ」
カチッとタバコに火を点けて、話す榎本さんに私は何も言えない。