【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
拒絶
あれから1週間も経たない、よく晴れた暖かい日の事。
満開に咲いていた桜も散り散りになり、その桜が散りゆく様を事務所の窓から眺めていた。
はらりはらりと舞い散る様はどこか物悲しくて、自分の心のように感じてしまう。
この1週間榎本海斗と2人きりになる事はなく、このままずっとそうならば…と、どこか安堵感のようなものがあった。
「仁菜!!ドラマ決まったから!!」
『…………』
事務所に入って来るなり、大声で叫んだガミさんに思わず顔を顰めてしまう。
窓辺から振り返れば、手に何かを持ったガミさん。
多分というか、まぁ台本なのだろうけど。
「次はホームドラマ!!!」
はいと手渡された台本をぱらぱらとめくってみる。
ホームドラマ?
私が…?
家族愛なんてわからないこの私が…?
『…嫌なんだけど』
「嫌って…」
「大丈夫ですよ。俺が演技指導しますし」
ガミさんの言葉を遮って事務所に来たのは…
榎本海斗。
その存在を視界に入れただけで、いやな汗が出る。
…何言ってんの。
この人。
あの“礼儀正しい榎本海斗”はガミさんににこりと微笑んで「ね?」と小首を傾げる。
ガミさんは
「そうね。仁菜のドラマ関係は榎本君に任せようかしら」
なんて頬を赤らめていた。