【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
「仁菜が嫌なら彼には違う仕事にしてもらうけど…」
ガミさんの言葉に反応したのは私ではなくて、榎本海斗だった。
「…マネージャーからは外さないでくれ…下さいっ!」
ガミさんに必死に告げる榎本海斗は腰を90度に折り曲げている。
ガミさんは困惑した顔をして、私に目配せして促してくる。
“仁菜が決めろ”と。
私にそんな事言える権利なんて、ないと思う。
チラリと榎本海斗を見れば、自然と伝わる必死さ。
多分…
多分なんだけど、榎本海斗は芸能界が好きなんだ。
マネージャーという形になってまでも、この世界にいたかった。
…だから、私みたいな中途半端が許せなかったんだと、今なら思える。
『もういいよ…アンタの言う通りだったから。…だけど、もう私は中途半端になんかしない』
「……」
榎本海斗は私をただじっと見据えているけれど、前みたいな嫌な感じはもうしない。
『アンタの事は好きじゃないけど、仕事はちゃんとしてるし、これからもマネージャー続ければいんじゃない?』
「…仁菜?」
ガミさんはスタスタと榎本海斗に近付く私をぽかんと眺めていた。
バチン
事務所内に響く乾いた音。
私の掌は少しジンジンとする。
『キスの事はこれでチャラにする。…だけどもう私に変な事はしないでよ』
頬を思いっきり叩いた私を榎本海斗は怪訝な顔で見ていたけれど。
「もうしない」
ちゃんと、ハッキリそう約束してくれた。