【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
2人で監督の後ろ姿を見つめていた私に隣からはぁーっと深い溜め息が落ちた。
「騙された…」
『え?』
榎本海斗はその場にしゃがみ込み、頭を抱える。
その弱った態度を初めて見た気がして、少し安堵する自分がいる事に気づく。
彼でもこんな風になるのか、と。
失礼かもしれないけど、私へ対しての高慢な態度しか見ていなかったから、弱い部分がないのだとばかり思っていた。
…そんなワケないのに。
「俺相模さんに、監督は滅茶苦茶怒ってて、多分俺干されるんじゃないかって言われてたから…」
そこまで言った彼は再び、はぁーっとそれは長い長い溜め息を吐いたのだった。
それは多分ガミさんの、ちょっとした意地悪みたいだった。
『榎本さん、帰るよ』
何時までもしゃがみ込んだ榎本さんに、そう告げれば少し吃驚した表情で私を見上げていた彼だけど、直ぐに立ち上がった。
…名前呼ばれた事に吃驚したに違いない。
これは私なりの譲歩だった。
いつまでもしこりを残したまま仕事をするのが、嫌だったから。
頑張ると決めた私が、進むための譲歩。