【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
その後のことはあんまり覚えていない。
その場から逃げるようにトイレを後にした私は、誰かにぶつかった気が…する。
目が覚めた時には見知らぬ顔が、私をのぞき込んでいた。
「あ、目ぇ覚めた?」
『………』
ダレデスカ?
『…ここは…?』
「病院だよ。仁菜ちゃん倒れたんだけど、覚えていない?」
眼鏡を掛けた柔らかい表情をした彼は、少し困惑した声を出した。
…言われてみれば全てが白で統一されたこの場所は、病院特有の消毒液のような臭いがしている。
『……覚えて…な―…』
「ふざけんじゃねぇよ」
“覚えてない”の言葉は第三者の声によって遮られたのだった。
…………ダレデスカ?
やたらと低い声を発したのは、眼光鋭く私を睨み散らす黒髪の、やたらと顔の整った男。