【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
「あ?今何て言った?もっとハッキリ言えよ!」
彼の怒りは収まらないらしい。
入り口のドアをドンって叩いたりするもんだから、思わず肩がビクッと跳ねた。
「翔!」
『……』
その行動にもう何も言えなくなっていた私と、慌てて彼の口を塞ぐ眼鏡青年との間に聞き覚えのある声がした。
「ちょっと!うっせぇんだけど!?仁菜、目ぇ覚めたのかよ?」
ドアの音にキレたのかなんなのか、病室に乗り込んできたのは私の代わりに収録に行ったらしかった珠璃だった。
『…しゅ…』
「…テメェ何した?」
「あ?」
私を見るなり眼鏡青年の狼狽える姿を払いのけて、勢いよく翔の胸倉を掴んだ珠璃はドスの効いた声で問いただす。
『……珠璃?』
困惑した私は慌てる眼鏡青年と、ただその姿を見ることしかできなかった。
「何もしてねぇよ」
「嘘つくなよな!!」
「ついてねぇよ!」
「テメェふざけんなよ?」
「あ?ふざけてんのはテメェだろ」
元ヤン珠璃との言い合いは迫力ありすぎで、私は元より眼鏡青年も止めることはできそうにない…
真っ青な顔色の眼鏡青年が、静かに病室を出た僅か数秒後。
「は〜い、スト〜ップ」
まさに一触即発の雰囲気を打破したのは、ゆる〜い声を発した第三者だった。