【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
トイレを済ませて手を洗っていると、今は聞きたくない声が聞こえてきた。
「あ〜仁菜さんだぁ〜」
耳につく甘ったるい声。
視線を上げれば、鏡越しにこちらを窺う杏里ちゃん。
『…杏里、ちゃん』
「杏里、今日ドラマの収録で来てたんですよぉ〜」
『そう、なんだ…』
なぜだか杏里ちゃんの目を見ることが出来なくて、顔を俯かせる。
だけどそんな事にはお構いなしの杏里ちゃんは、更に言葉を続けた。
「あっ!聞いてくださいよぉっ!さっき翔君が杏里は小さくて可愛いって!杏里嬉しくて思わず抱きついちゃったぁ」
『……そう』
両手を胸の前で合わせて、小首を傾げて朗らかに笑う杏里ちゃんと、トイレの床をじっと見続ける私。
「翔君小柄な子が好きって言ってて、杏里安心しましたぁっ」
…翔が?
翔がそんな事を…?
きゃっきゃとハシャぐ杏里ちゃんを余所に私の表情はどんどん曇っていく。