【完】白い花束~あなたに魅せられて〜
どれくらい経っただろうか。
10分だったかもしれないし、1分だったかもしれない。
貼り付けた笑顔のままの杏里ちゃんは、洗面台に手をつきこちらを見ている。
その間に耐えられなくて、自分が言った事が間違えなのかも知れないと思った時、杏里ちゃんの口がゆったりと開いた。
「仁菜さん、翔君と仲良しみたいですけど、手出さないで下さいねぇ〜?」
『…』
「そんな事したらアタシ、何するかわかりませんよ」
その言葉に、その表情に、その声に
背筋にゾクリ、悪寒が走った。
毛穴という毛穴は粟立ち、目の前の彼女が違う人物に見える。
冷笑を浮かべ、低い声を出したのは本当に杏里ちゃんなのか…
ただ何も言えない私に杏里ちゃんは、一瞬にして元の表情に戻る。
「なーんてねぇ〜」
いつもの口調でトイレを去って行った。
私の胸元を飾るモノを彼女が見ていた事も知らずに、私は慌てて控え室に戻った。