【完】白い花束~あなたに魅せられて〜


大河が榎本さんを宥める様子に、思わずじっとりとした視線を投げ掛けてしまう。



「…なんだよ」


『別に』


「ほら!仁菜、お前琉球ガラス見たいっつってただろ!?行くぞっ!!」



険悪になった私と榎本さんの間に慌てて身体を滑り込ませた大河の話し方は、一切間延びなんてしていない。
手をぐいぐいと引っ張って歩きだそうとする。



…私は琉球ガラスが見たいなんて言っていないじゃない。



ぐっとその場に踏みとどまり



『…モッチーのくせに』



ボソッと榎本さんが言われたくないであろうあだ名を口にした。



可哀想な事に珠璃と亜美奈が呼ぶその名に、周りの人が面白がってしまいその名が定着しつつあった。



「はぁ、お前何がそんなに気にくわないんだよ」



グシャリ、髪をかきあげた榎本さんは呆れ顔。
大河が握った手に力を込め、これ以上揉めるな、訴えかけてくる。



だけど言いたい。



『…捨てる事ないじゃん』



大河の気持ちを。
せっかく買ってくれたんだから。



「お前、今からロケだぞ?少食のお前の為にしただけだろうが」


『………』


「それとも何だ?俺にお前の食いかけ食えってか?」


『そんな事―…』


「仁菜!俺、喉乾いた!ちょっと付いて来い!!」



言ってないという言葉は大河の声にかき消された。



そのまま大河が勢いよく走りだすもんだから、繋がれた手のせいで私まで走る羽目になった。


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